小説掲載サイト【柊屋】に関する話題のほか、生物飼育、書籍、映画、他ジャンル作品、仕事など、日々関心を持ったことを、気が向いたときに書いています。
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一題五分小説
題目【原稿用紙・ペン・米・わりばし】
・わりばし
「喰らえ、割り箸ビイィィィィィィム!」
「米バリア! そんなもの利かぬわフハハハハハハ!」
私は学友と酔った勢いで屑のような戯れを繰り返していた。
「やめなよ恥かしいよ」
自分達よりはまともな酔い方の○○さんが笑う。
「ガキの頃はよう、何でも格好よくしたかったもんだろうっ?」
「そうそう。擬人化と同じようなもんだぜ!」
「でも割り箸は格好よくないと思うけどなあ……」
私はむむう、と唸った。では──。
「じゃあ、これでどうだ!」
輪ゴムと併せて即席のパチンコを造った。
「ぐはははは、これでどうだ! あなどれんだろう!」
私はよった勢いで好きな彼女に消しゴムをぱちんと当てた。実際にガキの時分を思い出す酸っぱさだった。
屑のようないたずらを三人で繰り返し、私達は私鉄駅への道を急いだ。
著 柊南天
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一題五分小説
題目【原稿用紙・ペン・米・わりばし】
・米
私は米のせいで転んだ。尻の方から実に派手に。勤める精米所の同僚達がげらげらと笑った。私は恥かしい気持ちを抑え、その場を笑ってやり過ごした。痛む尻を抑えて立ち、昼食の弁当を持ってきてくれた彼女を入口に迎える。
格好悪い所を見られてしまった。
「はい、○○君。お仕事頑張ってね」
「ああ。ありがとう、○○さん」
彼女は違う部署に勤めている。道路を挟んだ向かいの惣菜工場だ。
弁当にぎゅうぎゅうに詰められた米が嬉しかった。細身だが、私は大食らいなのだ。
その日の定時、私は自分を転ばした恥ずべき現場に足を運んだ。
「おい、この米野郎! よくも彼女の前で恥をかかせてくれたな!」
米は既に清掃された後だった。しかし、私は米の揶揄する声が聞こえた気がした。
自身の声だけが精米所の隅に去ってゆく。暫くして息をついた頃、待ち合わせていた彼女の声が入口から聞こえた。
「○○君、これ食べながら帰ろう?」
歩きながら彼女はつつみをあけた。炊きたての米でつくったおにぎりが二つあった。
「中身は?」
「えへへ、工場から貰った特製キムチ♪」
手にとり、ばくんと頬張った。
「うん、うまいよ。流石○○さんだ」
本当に上手いおにぎりを味わった後、先程の大人気なさに私はこっそりしょんぼりした。
指に残る塩っ気を舐めながら、彼女と帰路を歩いた。
作 柊南天
一題五分小説
題目【原稿用紙・ペン・米・わりばし】
・ペン
私は滑り込みで試験会場に入った。ぜいぜいと息を切らす私の姿を他の受験生が奇異の眼差しで見る。
当然だった。花形の公務員試験に定刻の滑り込みで来る人間など、追い詰められた一夜漬けの愚か者か、思い出作りに足を運ぶ楽天者くらいだからだ。
窓よりの席に着いた時、すぐに異変に気づいて焦った。身につけているのは、よれたワイシャツとネクタイ、ズボンだけだったのだ。昨晩やった景気付けの一杯でオチたそのままだった。
私は自分の顔が青くなっていくのを自覚した。
そう、私はペンを持っていなかった。
一頻り焦った末に、私はないであろうものにすがる勢いで辺りに手を這わせた。
私の座る机の足元に、奇跡的に鉛筆が転がっていた。
その一本で六時間の長丁場を凌ぐことができた。
後日、私は合格の通知を試験会場で受けた。
その更に後日、故合って試験当日の試験官から聞いた所によると、あのペンは当人が置いたものだったそうだ。
何故か、と聞くと、彼は、
「私もそうだったからだよ」と気さくにいった。彼は続け、
「幸運のひとつくらい、机の下に転がっていてもいいだろ?」
と、言った。
作 柊南天
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